
見ると先ほどの、昆虫食愛好家の変態食欲小学生である。気持ちが悪い。おそらく、中でがたがたやってるので、セックスでもしてるのかと、涎を垂らして、覗きに来たのだろう。下劣なウジ虫である。吐き気がする。おそらく、脳みそは昆虫ほどのサイズしかないのではないだろうか。だが、子供だから、馬鹿でも仕方があるまい。子供は大人に比べると、脳の大きさが半分くらいしかない。馬鹿で当然なのであるッ! やつらは一〇〇%、生まれながらにして、知的障害者なのである。まったく、おぞましい話だ。
さて、ここらはけっこう上品な一軒家が続く閑静な住宅地なのであるが、中には押し入れのパンツに茸が生えていそうな古く汚らしい木造アパートも残念ながら存在する。そういう家に生息する貧乏人の不潔な子供の一人なのであろう……。貧しい国、日本。頭が悪そうで鼻水が垂れていた。栄養が足りていないのだ。雑草や生ゴミでも食べているのか……。着ている中国製のTシャツには、食べ物をこぼしたらしい染みが付いていた。精液の染みかも知れない。ちゃんと税金を払っているまっとうな市民ならば、同席することを決して許そうとは思わない、不快極まりない下層階級の人間である。おそらく、パンツを脱がせ、肛門に鼻を付けて臭いを嗅いだら、糞便の臭いがたっぷりするに違いない。体格は小さく痩せこけている。まるで難民の子供のようだ。親に愛されていないに違いない。なぜならば、こういう不潔な子供の親は、派遣社員や工員をやるしか能がない、給料の安い低学歴な人間だし、そういう人間は頭の成長が弱いので、必ず子供に暴力をふるうものだ。遺伝的に欠陥があるのだ。劣等人種である。こういう汚れた血筋の人間に限って、たくさん子供を作り、さらに世界の生活環境を悪くして行くのだ。まさに負の悪循環である。深刻で由々しき社会問題だ。鉄玉郎は、次第にこの怯えた弱々しい子供が、地球の破滅をもたらす悪魔のように思えて来た。正義の鉄拳を下すべきではないか?
「汚らしい、虫けらめ」 鉄玉郎は、不快感を隠さない軽蔑しきった顔で、子供を捕まえると、高々と持ち上げた。「今すぐ、抵抗を止めないと、子供の命はないぞッ!」 信じがたいことを叫び、幽霊女子大生を恐喝する鉄玉郎。それでも、人間かッ! ほんの少しでも、暖かい血が流れているのかッ? 鉄玉郎は汚い子供を……生乾きの洗濯物の臭いがした……左右に乱暴に振り回した。子供は泣き叫んで暴れる。にたにた、残酷そうに笑う鉄玉郎。その姿まさに……悪鬼ッ!
(信じられない鬼畜だわ……。想像力の限界を超えている……) 女子大生怨霊は、目に見えて、うろたえた。人間性などまったく、なくなってしまったはずの、悪意の固まりである怨霊でさえ、唖然としてしまうほどの非道な鉄玉郎の行動であった。
反作用とでも、言うべきか……。なぜか、鉄玉郎の非人ぶりが明らかになるほど、霊魂女子大生は人間性を取り戻して行くように見えた。皮肉な話である。鉄玉郎があまりにも凶悪なので、怨霊でさえ、心優しく見えてしまうということか……。元女子大生は、数十年ぶりに、自分の弟の存在を思い出していた。自分は霊魂となり時間の流れは止まってしまったが、弟は今では、もう良い大人のはずだ。それを考えると、彼女は涙が出そうになった。それは、すっかり忘れていた感情だった。断じて、この子供のような汚いものではなかった。知的で優秀な学力の良家の子息で、ファミコンに夢中だった。しかし、彼女は鉄玉郎の頭上で振り回されている可哀想な子供……鉄玉郎は、今では子供の両足首を持ち、全力で振り回していた……が、まるで自分の弟のように見えて来た。ああ、これは彼女の女性ホルモンのもたらす幻覚であろうか。一部には異論があるかもしれないが、実際、子供はどれも同じである。小さくて似てるので、入れ替えても大した違いはない。また、統計的に見ても、子供は死にやすくできている。おそらく、これは神様が、子供が死んでも両親がすぐに忘れ、次の子を出産しやすいように、子供に個性というものを与えなかったのであろう。まさに、神様の知恵である。ありがたいことだ。現実的で賢明なアイデアである。子供とは入れ替え可能なパーツなのだ。
「たすけてーっ!」 汚い子供が最後の力を振り絞って、心霊女子大生に助けを求めた。女子大生とは言っても、血まみれで透明なモンスターである。そんな幽霊に助けを求めるとは、言わば鉄玉郎は幽霊よりひどいと認定されたようなものである。たいへん名誉なことだ。屠殺場でベーコンにされる寸前の豚のような声だったが、なぜか心霊女子大生は、さらにその子供が弟のように見えて来た……。気でも狂ってるのだろうか。血まみれの全裸女子大生は動揺し、たわわな乳房がゆっさゆっさと卑猥に揺れた……。
「わかったわ……」 どんな物理的な仕組みを使ったかわからないが、気体とわずかな微粉末だけで構成されている女子大生は、口をきいた。声帯はないので、あまり人間的とは言えない恨みのこもった声だったが……その中に、女性的な優しさが感じられないこともなかった。ミクロの女子大生粉末部隊の攻撃は一斉に止んだ。人体世界大戦は停戦になったのだ。久しぶりに新鮮な酸素を吸う鉄玉郎。皮膚呼吸やえら呼吸ができるとは言え、数十分もまともに息ができなかった。肺の中の女子大生の分子が、鉄玉郎が血液ガス交換をすることを許してくれたので、動脈の中にようやく酸素の含まれた血液が流れるようになった。緑色の腐敗した脳細胞にも、酸素が行き渡り、鉄玉郎の視界で踊っていた黒い丸……拡大すると鎌を持った死に神のシルエットになる……が消えた。鉄玉郎は全身に放射能を浴びた原子力発電所のように、元気を取り戻した。
(良かった……。この子にだけは死んでもらいたくない) 子供の足を持って振り回すのを止めた鉄玉郎を見て、怨霊女子大生は安心した。彼女もすっかり人間の心を取り戻したようだ。一つのかけがえのない生命を救ったことにより、彼女の命もまた救われたのだ……。
再生。
二度と太陽が登ることなどない、と思われていた彼女の住む暗黒世界。その世界に、天の岩戸が開かれたように、再び太陽が登り、美しい光が射し始めた。
命は大切なもの。
今までに、なかった認識が、彼女の中に電光掲示板のように光り輝き現れた。それは憎しみだけで、構成されていた彼女の精神に電撃のような衝撃を与えた。痛みとともに、暖かい感情が甦る。
(あたしは生きている……) 女子大生は思った。(そうだ……。あたしの名前は……飯野映理) 彼女は自分の心を取り戻した。
彼女の恨みのパワーに引かれて集まり、取り憑いていた、たくさんの悪意が、バンシーのような悲鳴を上げながら逃げ去って行った。暖かな愛が、彼女の冷たい身体の内に、満ちて来た。その刹那。
ぐちゃッ!
鉄玉郎が持ってた子供を、全力で石の壁に叩き付けた。その動きにまったく、ためらいはなかった。頭から、もろに激突した子供は、悲鳴を上げもせず、床に生ゴミのように落ちた。もちろん、ぴくりとも動かない。痙攣すらしなかった。弛緩した肛門から、糞尿が溢れ臭い。臭い子供がさらに臭くなったのだ。時間の動きが停止したようだった。部屋の中の空気は凍り付いていた。
「ぎょああああああああああああああああああああああああああああッ!」 人間とは思えない悲鳴を上げる死体女子大生……確かに人間ではないのだ。「ああああああッ」 「あああああああああッ!」 「あああああああああああッ!」 顔を手で押さえ、壊れたレコードプレイヤーのように絶叫していた。何を騒いでるのだろう。うるさい女だ。空虚な部屋に、女の悲しい叫びがいつまでも反響していた。地獄を見たいならば、ここにあった。
鉄玉郎は勃起していた。極悪人のような行動ばかりしているように見えるが、それでも人の子……たまたま、居合わせただけの罪のない子供の命まで奪うつもりは、毛頭なかった。血も涙のない凶悪な怨霊女の行動を止めさせ、世界の平和を守ろうとしただけなのである。